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松本亜梨さん(アナウンサー、タレント、ナレーター、MC、ディレクター) =出雲草さん(舞踊家) 『毎日がプレッシャーとの戦いです。』独創性溢れる「語り舞」が話題を呼ぶ

  • 2003.05.09

  • コラム

  • Haroro People!


連載 第2回 松本亜梨さん(アナウンサー、タレント、ナレーター、MC、ディレクター) =出雲草さん(舞踊家)
『毎日がプレッシャーとの戦いです。』独創性溢れる「語り舞」が話題を呼ぶ
「石橋をたたかずに渡ってしまうタイプなんですよ。破天荒なんです。 渡ってしまってから"どうしよう~"と、実は小心さがでたりするんですけれども・・・」

度胸のある人である。見た目の小柄で可愛らしい雰囲気とはうらはらに、大きな器をもっている人だ。

語りと舞を合体させた「語り舞」は、松本亜梨さんが編み出した、オリジナルの舞台。少しづつ草の根的な広がりをみせている。
「源氏物語」の世界を中心に構成された、まったく独創的な舞台であり、和歌を詠んだ後に補足説明をする。一人芝居を見ているような感覚だという。

「"あんた、サメだね"なんて友達にいわれるんですよ。サメは動き回っていないと死んでしまうから。 それこそ約1時間の舞台の上だけはサメじゃないかも・・・」
普段の生活が忙しい分、舞台の静寂さに本人自身がはまっている様子である。

舞踊家とアナウンサーという2足のわらじを履くことについては、批判する人も中にはいるが 「アナウンサーも語り舞も、表現するという面では共通している。相乗効果でどちらも良くなって行けば嬉しい」という。
亜梨さんの人生の大きな転換となった地唄舞の名手、出雲蓉師匠との出会いは今から15年前。師匠の舞台公演を見て取り付かれてしまったという。師匠は今 もっとも脂がのっている人だといい、古典の世界だけに留まらず、オペラやミュージカルの振付けなど新しい可能性を常に求めている人なのだそう。
「なんていいますか、師匠という存在は私にとって肉親とも違う、もの凄く深い関係。一生、師匠であり私の目標でもあるんです。」亜梨さんも師匠と同様、常に新しいものを生み続けたいと思っている。


▲ 舞踊家 出雲草さん

▼ アナウンサー 松本亜梨さん
▲ 語り舞ライブ 5.2回より・・・
美しく、妖艶な世界

 最初は自主公演からスタートした。始めて7年になる。毎年新しい作品を発表しているため、毎日がプレッシャーとの戦いだという。ハードなスケジュールであることは碓かだが、生みの苦しみと喜びが最高に心地いいという。「オリジナルの舞台なので1回1回が真剣勝負。舞台を見て良かったという人の御縁で次に繋がり、今まで続けてくることができた。本当に皆様のおかげです」
 毎日が舞台にむけてのセリフの稽古だという。現在は夕方にラジオ番組の仕事があるので昼前稽古することになる。舞のほうは月に2,3回、東京にいる師匠のもとに通って稽古をしている。

 次の公演、5月24日に開催される5.4回ライブについては、「本当は9回目なんですけど、10回目というと10回記念をやらなくちゃいけないでしょ。けれど、そこまでするには自分でまだまだと思った。だから5回目以降は、お座敷の小さいところでやっているので0,1回と数えて、今回を5.4回目ということにしたんですよ(笑)」

 語り舞は「雅びな宮中の生活や光源氏に愛された姫君の 世界、光源氏の思い等」を和歌を通して現代語で語るのですが、普段使わなくなった日本語の美しい響き、日本人ならではの表現をぜひとも堪能して欲しい。若 い人に特に。出来れば、高校や大学の授業で取り上げて欲しいと思っています。」
「語り舞は一人舞台のようなものなのですが、衣装も別に十二単衣を着るわけでは無く、メイクも奇抜なものをするわけではない。声色もできるだけ変えず、舞の表現と語りのみで、見ている人が登場人物の情景がありありと浮かぶよう構成しています。」
以前舞台を見て下さったお客さんに"まるで源氏物語の絵巻物をみているようだった"といわれたこともある。
「古典の世界は分からない、という人もいると思いますが、日本人のわび、さびの世界、鄙びた風情やおおらかさの表現、言葉の美しさを聞いて感じて欲しい。舞台の語りは現代語ですが、普段使わなくなった言葉もあるんです。」「日本の言葉を大事にしていきたいです。」と付け加える。

「実は声にコンプレックスがあったんですよ」という亜梨さん。同僚のアナウンサー達はもっと高くて可愛らしい声をしていたからなのだそう。「でも舞台を始めて声が変わってきたのがわかります。最初の舞台と今の舞台では声がまったく違っています」と自分の変化に驚いている。

「"あなたには才能が無いんだからやめてしまいなさい!"と師匠には何回も言われました。"才能が無いんだから人の3倍練習しなきゃ"といわれるんです。」
普通だったら尊敬している師匠に「才能が無い」なんて何回も言われたら自信を無くしたり、やめてしまう人も多いのではないか。でも亜梨さんは違った。
「どんなにつらかろうと苦しかろうと、"やめる"という文字が私の中には無いんですよ。不思議ですね。本当に好きなんです。
泣いたり落ち込んだりすることもありますが、師匠に叱られなくなったら最後。叱ることは凄くエネルギーがいりますよね。私は叱られる分、師匠からエネルギーを頂いているんだなあと思っています。」
人生でそこまでいえる人に巡り会えるというのもすごいことである。


家で亜梨さんがあまりにもつらそうな時、見兼ねた母親が「もう、やめたら」と言うこともあったという。
「だけどやめられない、やめたくないんです。あまのじゃくだから発破をかけられるといい作品ができるんですよ。誉められるとダメなんですね。」舞台を続けるには、お金も使うし、時間も使う。「応援して下さっている人のお陰で今の自分があるんです」という。
舞台を始めた頃は新聞やラジオなどマスコミにもよく取り上げられた。でも、それはアナウンサーが舞台をやるということで、めずらしいから取り上げられた のであり、又、たまたま瀬戸内寂聴さんの「源氏物語」が話題になっていたからであると本人は思っている。
「本当の舞台の実力としてはまだまだこれからです。」

今後は、民話や昔話を「語り舞」にアレンジしてやってみたい。という夢がある。皆が知っている話であり、いろんな人が様々な方法で表現しているため、いかに独創的な世界を作り出して行くかが難しいところだという。

夢をどんどん形に変えていくバイタリティのある松本亜梨さん。話をしていると、こちらまで勇気が湧いてくるような頼もしい人である。今後の活躍がますます期待されている。

2003.5.9